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偏光(偏波)とは

≪偏光とは≫
 光や電磁波は、電界や磁界が進行方向に垂直な面内で振動しながら進む横波です。偏光(Polarization)とは、進行方向に垂直な面内での電界や磁界(正確には電界ベクトルや磁界ベクトル)が時間的・空間的に規則的な振動をしながら進行する光やそのような光波の状態です。光の進行方向後方から見たときの電界ベクトルの振動(偏り)の尖端が描く軌跡によって直線偏光、円偏光、楕円偏光に分けられます。 光の場合は偏光と呼ばれますが、電磁波の場合には偏波と呼ばれます。

≪光の種類≫
 光(電磁波)は原子のエネルギーの変化から生まれますが、一つの原子からは10-8秒くらい偏光した光を出し続けるといわれています。電球など熱光源からの光は、様々な向きの膨大な数の原子からの光が集まってできていますので偏光した光がばらばらに重なり合い、全体としては偏光状態が観測されなくなっています。このような状態は、非偏光あるいは無偏光と言われます。太陽からの光(自然光)も非偏光です。 他方、レーザーは電界や磁界の振動方向がそろった(偏った)原子からの光だけを集めて出し続けますので、偏光した光となります。 光は、偏光した光、偏光していない光(非偏光)と、偏光した光と非偏光の光とが混じった部分偏光の光とがあります。

≪偏光の種類(直線偏光、円偏光、楕円偏光)≫
 均質な媒質中を進む光では、進行方向に垂直な面内の電界(磁界)ベクトルの動きは直交する電界(磁界)の振動成分に分解できることが分かっています。 z方向に進む周波数f、波長λの光は、直交する電界の振動成分をEx、Ey、電界成分間の位相差をδとすると、以下の式で表すことができます。

  Ex = E0x cos(ωt – kz)
  Ey = E0y cos(ωt – kz + δ)

    ここに、E0x、E0yはx、y方向の最大振幅値、ω=2πf、k=2π/λです。

偏光した光は、E0x、E0yと位相差δによって直線偏光になるか、円偏光になるか、楕円偏光になるかが決まります(図1)。

E0x=E0yの場合、位相差δが0とπで電界成分の頂点の軌跡は直線となるので「直線偏光」と呼ばれます。
また、電界ベクトルが振動する面は偏光面(または振動面)と呼ばれます。

δがπ/2のときには軌跡は右回りの円を描き、3π/2のときには左周りの円となるので、「円偏光」あるいは「右回りの円偏光」、「左回りの円偏光」と呼ばれます。

位相差δが0、π/2、πを除く0からπまでの場合には「右回りの楕円偏光」、π、3π/2、2πを除くπから2πまでは「左回りの楕円偏光」と呼ばれます。

なお、E0xとE0yは直交する座標軸(x、y)の取り方によってE0x = E0yとできます。図1ではE0x = E0yとしています。

 

図1.位相差δによる偏光状態の変化

 

≪偏光状態の表記(ストークスパラメーターとポアンカレ球)≫

 ≪ストークスパラメーター≫
 
 光の偏光状態は、直交する電界成分の振幅E0x、E0yと位相差δによって決まりますが、これらを直接測定することは難しく実用的ではありません。このため、光の強度測定だけから求めることができるストークスパラメーター(Stokes Parameters)を使って偏光状態を表す方法が使われています。 ストークスパラメーターは、上述したExとEyの式から次のように定義された四つのパラメーターです。

 S0 =〈E0x〉+〈E0y
 S1 =〈E0x〉-〈E0y
 S2 =〈2 E0x E0y cosδ〉
 S3 =〈2 E0x E0y sinδ〉

 ここで、〈‥〉は時間平均を表します。
 S0は入射光の強度、S1は直交する成分間の強度の差、
 S2は+π/4成分と-π/4成分との強度の差、
 S3は右回り円偏光と左回り円偏光との強度の差を表しています。

通常、入射光強度S0でS1~S3を割り最大値が1となるように表記します(正規化ストークスパラメーターとも呼ばれます)。方向は+(右)、-(左)で表します。
特徴的な偏光状態のとき、S1=S1/S0、S2=S2/S0、S3=S3/S0は次表のようになります。

 

表1. 特徴的な偏光状態とストークスパラメーター

 ( S1, S2, S3 偏 光 状 態
 ( 1, 0, 0 )  Ex成分だけの直線偏光
 (-1, 0, 0 )  Ey成分だけの直線偏光
 ( 0, 1, 0 )  Ex軸に対し45°傾いた直線偏光
 ( 0,-1, 0 )  Ex軸に対し-45°傾いた直線偏光
 ( 0, 0, 1 )  右回りの円偏光
 ( 0, 0, -1)  左回りの円偏光

 

≪ポアンカレ球(Poincare Sphere)≫
  S02 = S12 + S22 + S32であることから正規化ストークスパラメーターはS12 + S22 + S32 = 1 となり図2のような、S1、S2、S3を直交軸、半径を1とする球表面上で示すことができます。この球をポアンカレ球(Poincaré Sphere)といいます。

図2.正規化ストークスパラメータによる偏光状態表示

  また、ストークスパラメーターのS1、S2、S3は、図3に示すように楕円偏光の長軸がy軸となす角(方位角)をΦ、楕円の長軸(2b)と短軸(2a)から決まる楕円率(a/b)を表す楕円率角をχ( tanχ = a/b )とすると
 S1 = cos2χ cos2Φ
 S2 = S1 tan2Φ= cos2χ sin2Φ
 S3 = sin2χ
と変換することができます。
これは、S1、S2、S3を軸とする直角座標を、S0(=1)を動径、2χと2Φを偏角とする球座標に変換することと同じです。  

図3.楕円偏光の方位角と楕円率

 ポアンカレ球では、赤道上の経度2Φの点(cos2Φ、sin2Φ、0)が、偏波面がy軸に対しΦ傾いた直線偏光であることを示します(図4)。
経度0°の点がy軸上の直線偏光、経度180°がx軸方向の直線偏光を表します。
北極は右回りの円偏光、
南極は左回りの円偏光、
北極から南極までの子午線をたどると右回りの円偏光⇒右回りの楕円偏光⇒直線偏光⇒左回りの楕円偏光⇒左回りの円偏光と楕円率が次第に変化することになります。
経度2Φ、緯度2χの点は偏光の軸がy軸方向からΦ傾き、楕円率を表す楕円率角がχの楕円偏光を表します。また、楕円偏光の回転の向きは北半球が右回り、南半球が左回りとなります。  

  ≪偏光素子(偏光子、旋光子、移相子=遅相子、偏光解消素子≫
 偏光の種類(状態)を変える素子を偏光素子といいます。
偏光素子には、
特定の方向の直線偏光だけを通す偏光子(Polarizer)
入射光の偏光状態を変えずに向きだけを回転させる旋光子(Rotator)
直交する電界ベクトル間の位相差を変化させ偏光の種類を変える移相子(Retarder、遅相子とも呼ばれます)、
偏光状態を非偏光状態にする偏光解消素子(Depolarizer)があります。

≪偏光の用途例≫
 偏光を利用した主な用途として、次のようなものがあります。

1) Faraday効果1*)や磁気Kerr効果*2)など光学計測や光通信などで使用される光学部品での透過・反射光量制御や光路変更
2) 光ファイバ通信での多重化方式(偏波多重)
3) サングラスや光学フィルターなど偏光による透過光量制御
4) 液晶ディスプレイなど特定方向に偏光した光だけを透過・遮断するフィルター
5) 光磁気ディスクなど磁気による偏光方向の変化を利用する用途
6) 左右の目にそれぞれ異なる映像を見せる立体映像(3D)用途 などがあります。  

*1)Faraday効果とは物質に磁界を印加すると、物質を透過する直線偏光の偏光方向が回転(磁気施光性)したり、直線偏光が楕円偏光に変わる現象です。石英ガラス、ホウケイ酸など多くのガラス材料で観測されます。特に、ガーネット系材料のGGG、YIG、RIGは大きな磁気依存性(正確には旋光性と言います)があるため、光変調デバイスや光アイソレータなどの光通信用デバイスに応用されているほか、電子部品や磁性体材料に密着させて表面の磁界分布を可視化する用途に使われています。

*2)磁気Kerr効果は磁化を持つ物質に直線偏光の光を当てると、反射光に偏光方向の回転(磁気旋光性)や偏光の楕円化が観測される現象で、光磁気ディスクの読出しや太陽フレアの観測などに使われています。

 

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